日本の夏の風物詩である『かき氷』。
その清涼感で昔から多くの人を魅了してきましたが、近年では専門店も増え、様々な技法が取り入れられたかき氷は、甘味処の一品から独立したジャンルに進化しています。
流行り廃りの激しい飲食業界においても、一時の流行ではなく一つの文化として浸透しており、今後も人々の心を掴み続けることは間違いありません。
そんなかき氷を自分で作って、多くの人に食べてもらいたい。自分のお店を出して、お客さんの笑顔に囲まれたい。
だけど、何から準備を始めて良いのか全くわからない…
そんな方はきっと多いはず。
ここでは夢のかき氷屋さんを実現するために必要な準備やスキルなどの情報を発信していきますので、ご参考になさってください。
『かき氷』と一言でいっても、人によってイメージは様々です。
海の家やお祭りの屋台で食べる鮮やかなシロップがかかったかき氷、昔ながらの甘味処で食べる素朴で優しい味わいのかき氷、オシャレなお店で食べるまるでスイーツのようなかき氷、味付き氷を削った滑らかな口溶けの台湾風かき氷、などなど。
どれも美味しさや食べる楽しさが詰まっていますが、見た目も味も金額も全くの別物と言って良いほど違います。
つまりお客さんの層が全然違います。
かき氷屋さんをやるのであれば、まずは自分の提供したいかき氷がどのようなスタイルのものなのか、どんな特徴があるのか、しっかりとイメージして言語化できるようにしてください。
そうすることで、かき氷屋さんの開店・開業までに準備すべき機材や必要なスキルなどが明確になります。
あなたが提供したいかき氷が決まれば、自ずと購入しなければいけない業務用かき氷機の種類も決まってきます。
例えば、一杯一杯丁寧に氷を削ってこだわりのかき氷を提供したい場合は、ブロックアイスをフワフワに削る『ブロックアイススライサー(ブロック氷専用氷削機)』が必要になります。
一方、スピーディーに大人数のお客さんにかき氷を提供しなければいけない場合は、キューブアイスをパウダースノー状に削る『キューブアイススライサー(バラ氷専用氷削機)』が必要になります。
また、味の付いた液体を凍らせて削る台湾風のかき氷を提供したい場合は、それに対応した機種『マルチスライサー』が必要になります。
それぞれのかき氷機で削った氷は同じ『かき氷』と呼ぶものの、全くの別物と考えてください。
ここではそれぞれの業務用かき氷機の特徴とメリット・デメリットをお伝えします。
ブロックアイス(角氷)の半貫目を削るタイプのかき氷機。
昨今の人気かき氷は、ほぼ全てこのタイプのかき氷機で削られたものです。
削った氷のフワフワ感は、美味しいかき氷に欠かせない要素です。
3cm角程度のキューブアイス(バラ氷)を削るタイプのかき氷機。
スーパーやコンビニなどでも売っている、かちわり氷も使用することができます。
フワフワのかき氷は作れませんが、誰でも簡単に削ることができます。
味付きの氷や冷凍した果物などを削るタイプのかき氷機。
台湾風かき氷を作りたい場合はこの形式一択です。
氷を削る純粋なかき氷とは少し違いますが、削る物によって様々なメニューを楽しめます。
フワフワかき氷を作るのに必要な業務用かき氷機は、ブロックアイススライサータイプのものです。
このタイプのかき氷機は選択肢が多く、どれを選べば良いか悩む方も多いでしょう。
最近では安価な中国製の商品も増えてきましたが、業務用で使うのであればやはり日本製の物が品質やメンテナンスの面から良いと言えます。
特に業務用かき氷機の二大メーカーである『中部コーポレーション』と『池永鉄工』の商品を選んでおけば間違いがありません。
日本のかき氷屋さんのほぼ全てが、このどちらかのメーカーのかき氷機を使っています。
それぞれのメーカーのかき氷機で違いや特徴がありますが、ここではお勧めの3機種をご紹介いたします。
中部コーポレーションが出す『初雪』シリーズの定番商品と言えばこれ。
備えている機能としてはシンプルかつオーソドックスですが、それ故に高みを目指す方に最適な1台と言えます。
使用する刃は鋼製なのでしっかりとした管理やメンテナンスが求められますが、プロの料理人が鋼の包丁を好んで使うことからも分かるようにように、究極のフワフワかき氷を作りたい方には切れ味の良い鋼刃を使用することが不可欠です。
ただ、鋼刃の扱いが難しい場合は、ステンレス製の刃の替え刃も購入できるのでご安心ください。
また、この機種は拡張性も高いので、お店のかき氷のスタイルやご自身の使い心地に合わせてカスタマイズすることもできます。
池永鉄工が出す『SWAN(スワン)』シリーズの人気商品。
ブラックなボディの見た目もカッコよく、おしゃれなお店にも馴染む優れたデザイン性があります。
またステンレス製の刃を使用しているので、鋼製の刃よりも日々の扱いや管理がしやすいという特徴があります。
ステンレスの刃は錆びにくいですが、切れ味が悪くなるとフワフワの氷が削れなくなるので、替え刃も用意するようにしてください。
中部コーポレーション『初雪』シリーズのもう1つの人気商品。
氷を置く円盤の下が大きく空いていることで、削った氷を器で受けやすくなり、かさの高いかき氷を作りやすくなります。
また、盛り付けるお皿も径が大きいものを選択できるようになるので、よりデザイン性の高いかき氷が作ることが出来ます。
刃は鋼製なので切れ味も良く、フワフワなかき氷も作りやすいです。
SNS映えするかき氷もこの機種を使えば作りやすいですね。
素早く大量のかき氷を作るのに適した業務用かき氷機は、キューブアイススライサータイプのものです。
ブロックアイスのように大きな氷を用意する必要もなく、氷の補充も簡単なのが特徴です。
また、スイッチを入れるだけで簡単に氷を削ることができるので、かき氷の出来に個人差が出ないこともあり、負担なくかき氷を作ることができます。
キューブアイススライサータイプのかき氷機には、定格時間(連続で使用できる時間)や入れられる角氷数の違いがありますが、ここではお勧めの2機種をご紹介いたします。
入れられる角氷の容量の大きさがこの機種の一番の特徴。
パワーがあるので、大量のかき氷を連続で作ることができるのが何よりものメリットです。
かき氷の注文がほとんど入らないお店以外は、定格時間が無制限の機種を選ぶことをお勧めします。
容量が控えめでコンパクトなサイズ感の機種。
価格も安めなので、とりあえずかき氷を試してみたい方や、かき氷機を移動させることが多い方に最適な1台です。
こちらも連続使用が可能な機種なので、お客さんが多い場合も安心して使えます。
かき氷屋さんを始める方法として、店舗をゼロから作っていく方法以外にも、多くの選択肢があるということを知っておくことが重要です。
かき氷屋さんは重飲食(レストランや焼肉屋さんのようなしっかりとした厨房や什器を必要とする飲食店)ではなく軽飲食(カフェやバーなどの簡単な調理だけの飲食店)にあたるので、厨房設備に多くの金額を必要としません。
そのため、例えばカフェやバーの居抜きでお店を始めるというプランも、初期費用やリスクを抑えた有効な選択です。
もちろん内装の清潔感や残された什器の状態を見ながら修繕は必要になりますが、実際に居抜きを利用してかき氷屋さんを始める方も多くいらっしゃいます。
他にも他業種のお店の空き時間にかき氷屋さんをやる、という方法もあります。
居酒屋さんのような夜しか営業していないお店のお昼時間帯を使わせてもらう、レストランのランチとディナーの間のアイドルタイムを使わせてもらう、といったスタイルで営業しているお店もあります。
かき氷機はそこまで場所を必要としないので、様々な出店方法の可能性が考えられますね。
また、キューブアイススライサーを使ったかき氷屋さんであれば、キッチンカーでどこでも行ける形で営業する方も多いです。
お客さんが多い場所に自分から移動できる、というのはキッチンカーならではの強みですね。
日本全国を見回してみると、かき氷を提供しているお店は意外と多く存在します。
季節性商品であるため、専門店となると数は限られますが、夏になれば多くのお店がメニューの一つとしてかき氷を出します。
あなたがかき氷屋さんをやるのであれば、そのようなお店のかき氷と比較されるわけです。
そのような状況でも埋もれることなく、しっかりと強みや特徴を出してお客さんに継続的に選んでもらえる価値を提供する必要があるのです。
では実際に強みや特徴はどのように打ち出せば良いのでしょうか?
一緒に考えてみましょう。
かき氷を作る際に使用する氷は、一般的に『純氷(じゅんぴょう)』か『天然氷(てんねんごおり)』の二択になります。
純氷は氷屋さんが作る透明な氷です。製氷機で作った氷と違い、専用の機械を使って時間をかけて水を凍らせるため、気泡や塩素などの不純物が入っていない綺麗な透明の氷になります。
かき氷を出すほとんどのお店は、この純氷を使っています。
一方、天然氷は冬の自然の厳しい寒さを利用して天然水を凍らせて作る氷です。
自然の寒さによって氷は少しずつ凍っていくため、不純物を含まない純度の高い氷になります。
天然氷を作るのには多くの人の手間暇がかかっており、希少価値の高い氷と言えます。
また、昨今では温暖化の影響もあって冬の寒さが十分ではなく、なかなか天然氷ができないという事情もあるようです。
そのため、天然氷を使ったかき氷を出しているお店はあまり多くなく、それだけでもアピールポイントになります。
天然氷の美味しさがダイレクトに伝わるような、蜜やフルーツを使用したシンプルなかき氷がおススメです。
かき氷の人気メニューと言えば、やっぱりフルーツソースのかき氷ですね。
無果汁のシロップとは違い、季節のフルーツをたくさん使ったフレッシュなソースはコストもかかりますが、美味しさは格別です。
また、ソースを作り置きするのではなく、お客さんからの注文が入ったタイミングでソースを作ると、鮮度が違うため果物の香りや瑞々しさが際立ちます。
手間はかかる分、圧倒的な美味しさを提供できるのです。
高単価かつ高付加価値を目指すのであれば、フレッシュフルーツを使ったかき氷は1つの選択肢です。
近年のかき氷はフワフワ食感の物が人気を集めています。
かき氷機(ブロックアイススライサー)で極限まで薄く削られた氷は、まるで羽毛のように軽く柔らかな食感。空気を多く含むので、頭も痛くなりにくいです。
ただ、氷を綺麗に薄く削るのにはスキルや知識が求められるのも事実。
誰でも簡単にフワフワ食感のかき氷が作れるわけではありません。
だからこそ、しっかりと削りの技術を身に付けて、他のお店が簡単には真似できないようなかき氷を作ることが出来れば、それは大きなアドバンテージになります。
そのようなかき氷を目指す場合は、せっかくのフワフワ食感が台無しにならないように、ソースやシロップにも細心の注意を払いましょう。
お客さんの目の前に運ばれたタイミングでベストな状態になるように、計算しつくされた一杯を目指してみてください。
今の時代、お客さんが商品を購入する理由は「消費」のためだけではありません。
自身のSNSに写真を上げることを目的にしている人も多くいます。
そのような人の心を惹くような、いわゆるSNS映えするようなかき氷を用意するというのも選択の一つだと言えるでしょう。
ただ、見た目ばかりを追い求め、かき氷本来の美味しさやバランスを乱してしまえば、一時の人気で終わってしまう可能性もあります。
ベースにあるかき氷としての美味しさは決して崩すことなく、その上でオリジナリティのあるデコレーションやトッピングに挑戦してみましょう。
多くの人は「かき氷は簡単で誰でも作れるもの」という認識を持っていると思います。
確かに昔からある鮮やかなシロップのかかったかき氷はそうかもしれません。
ですが、近年人気を博しているフワフワ系のかき氷は、実は思ったよりも単純なものではありません。
かき氷機の正しい扱い方やメンテナンスの仕方、氷の適切な状態管理、ソースやシロップの糖度や粘度の調整、器のチョイスやデコレーションの仕方、削る場所の温度や湿度に合わせた削り方、などなど…
こだわりを持てばいくらでも深掘りできる要素ばかりです。
せっかくかき氷をやるからには、こうした奥深い技術の探求をして、『かき氷道』を極めてみるのも良いですね。
何か技術を身に付ける際に、独学で挑戦する、というのはとても素晴らしいことだと思います。
今の時代はネットの情報やYouTubeなどの動画でも、多くの優れたコンテンツを無料で視聴・閲覧できます。
それこそかき氷に関する情報も簡単に得ることができます。
また、最近では有名店が監修・販売するかき氷のソースやシロップのレシピ本もあるので、そうした教材を参考にして自分で作りながら学んでいくのも良いかと思います。
ただ、独学で技術を習得するのはそれなりの時間がかかることや、相談できる存在がいないために苦労することも覚悟しておく必要があります。
独学での技術習得に対して不安がある方には、講習やスクールの利用をお勧めします。
実際にお店を出してお客さんにかき氷を提供している先輩から学ぶことは、とても重要で価値があります。
かき氷の講習やスクールはまだまだ少ないですが、だからこそそのようなところで学んで技術の土台をしっかりと身に付けることで、自信を持ってお客さんに提供できるかき氷が作れるようになるのだと思います。
こちらでは習得したい技術レベルに合わせて講習をいくつかご用意しておりますので、ご興味ある方はご参加ください。
かき氷を構成する要素は、氷とシロップ、ソース、トッピングです。
人気店のシェフが実際にお店で提供しているかき氷のレシピを取り上げて、これらの要素をどのように組み合わせているか解説し、ソースの作り方やトッピングの合わせ方、デコレーションを試食や実践を交えてお伝えいたします。
講師: | 小鮒 博明氏(DÉGUSTATION オーナーシェフ) |
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開催場所: | DÉGUSTATION店内(東京都世田谷区成城2-37-11) |
東京の成城学園前にあるフレンチレストラン『DÉGUSTATION(デギスタシオン)』オーナーシェフ。長年お客様に喜んでいただける料理を提供することに心血を注ぐ。
コロナ禍のタイミングでかき氷に出会い、自身の表現の広がりを感じ、毎日新たなスタイルやソースの開発に励むように。
料理で培ってきたセンスや技法を取り入れた独創性溢れるかき氷は、『マツコの知らない世界』や『有吉くんの正直さんぽ』等メディアでも数多く取り上げられ、予約の取れないお店として人気を博している。